注解版 読書アドバイザーとは何か1

注解版 読書アドバイザーとは何か1問題の所在

 読書アドバイザーと聞いたときの印象は、読書をアドバイスしてくれる人ぐらいのことだと考えるでしょうが、その読書というのは小説などを始めとする読みものを対象にすると考えるかもしれません。しかし、本来きわめて個人的な行為である読書にアドバイスするというのはなんて奇妙な言い方である事でしょう。何を読もうが大きなお世話かも知れません。このきわめて私的で、自らが行う行為である読書とアドバイスを結び付ける読書アドバイザーとは一体なになのでしょう。
 この問題を考える手がかりとして『日本読書株式会社』というタイトルを持つ本を例にとって考えてみたいと思います。この面白そうなタイトルの本は、巻頭の対話「日本読書株式会社とは何モノか?」によって内容を明らかにしています。それによると、『本の雑誌』の「読書相談室」QandAを一冊にまとめたものであることを明らかにしています。また、それだけではなくて、編集者目黒孝二の夢だったものがその中核になっていることも言い添えています。まず、その目黒の夢ですがそれをこんな風に語っています。

  目黒 そうそう。大学を出て、みんなが働いているのに、こっちは後ろめたかった
ころに考えていた夢だった。五階建てのビルがあってね、その最上階の社長室に自分
がいて、毎日そこで好きな本を読んでいるんだけれど、暇になると下に降りていくの。
そうやって、たとえば三階のミステリー課によって、今日は何かおいしそうな新刊があ
るかいって聞くと、課員たちがたちどころに教えてくれる。
                            (『日本読書株式会』)

 このような夢で、本当に読書好きの夢のような話です。でも読書好きならこのような話は、夢としてでも考えたことはあるのではないでしょうか。しかしここでも本の対象は小説などの読み物が対象になっていますので、先に述べた読書アドバイザーの印象に近いかと思います。
 またこの夢は発展していて、この読書株式会社というのは、会員制で事前に個人のデータ(好み、家族構成、生まれた街、など)を登録しておくと、そのデータから出張に出るときなど、「何かスカッとする本が欲しい」と言うと、データを参照して新刊を紹介してくれるというシステムを夢想したとあります。しかしすぐに分かるように本当のピタッとした本を探すことはむつかしいでしょうし、そうすぐにうまくゆくとも思えません。そこでできる範囲で試行したのがこの本の内容であると述べています。
 それではともかくもこのQanndAをさっそく見てみることにしましょう。

  A
仕事で疲れた
仕事で疲れた頭でも簡単に読める本をお願いします。できれば、持ち歩きやすい文庫
がよいです。
相談員吉田
それならば、ジェイムズ・ヘリオット『Drヘリオットのおかしな体験』(集英社
庫)はいかがでしょうか。獣医の体験する動物たちのエピソードを綴った本で、ほのぼ
のとしたユーモアに思わずすっと笑いつつ、心がほかほかしてくるような、そんな一冊
です。
                   (同右)

ここには本の大好きな人のおもいがいかんなく発揮されています。質問している方もそれを受けている方もともに本が大好きななのです。そしてまた読書アドバイザーと言ったときにはこのような答えをする人をさすのだというのが一般的な理解かも知れなれません。
ともかくも別の質問も引用してみましょう。

B 子どもの通っている小学校の図書館で購入する本を、PTAで決めるそうです。予
算はドーンと、六万円です(私は、本人が面白ければ、どのような本でもよいのです
が、せっかくなので)
C 感情のメカニズムについての心理学、あるいは医学論文(書籍)で手に入るものは
ないですか?(卒論で使う)条件は、論拠および論旨がはっきりしていること、感情
を脳のメカニズムに関連づけていること。お願いします。
D もうすぐ失恋しそうな予感の三十一歳(女)です。「男がなんだー!けっ!」と吉
田伸子さんふうにいえるような…・元気の出るおすすめ本を教えてください。
                    (同右)

結論から言いうと、BとCは該当するがAは該当しないと考えるのです。Dは回答を読めば質問者と回答者が遊んでいます。(これはこれで非常にいい。)注1

注1
回答は「うーん、男がなんだー!けっ!と思えるかどうかは自信がないんだけれ
ど、読んでスカッとした気分、げっ、こうしちゃおれんぜ、がんばるぞー、といっ
た気になるロマンス小説を。エリザベス・ゲイジ『ゲームの行方』上下(扶桑社ミ
ステリー)です。自分を陥れた相手をビジネスの世界で一歩一歩追いつめていく、
ロマンス小説でありながら、女性のサクセスストーリーでもあり、爽快です。もり
ろん、ロマンスも出てきます」。ヨシダのロマンス小説ベスト5に入る一冊でもあ
ります。ぜひ読んでみてください。」というすてきなものです。

 なぜBとCが該当してAは該当しないのか。これをめぐっての議論が本論の目的なのです。決してAが個人的な事情であるからではなく(Cもあきらかに個人的な事情であるし)また社会的な事情と関係しているわけでもありません。われわれが考える〈読書アドバイザー〉なる概念はこういった慨然的な要因ではなくて、読むという行為そのものへと言及される必要があるのです。
 

注 このままでは、なぜAは該当せず、BCだけが該当するのか良く分からない。あとの論議を読めば分かる仕掛けになっているのであるが、それが分かるためには「読む」という行為そのものに言及しているので、そのことが分からないことには理解できない。しかし、良く分からないようなのでいまさらの解説を加えておくと、ADは自分の欲求のもとに出てきた質問で、BとDは読書の条件へとシフトしているから、と答えることができる。Dは特にレファレンスそのもので、その検索の方法さえ指し示さればいいということだ。