菅谷義博『ロングテールの法則』東洋経済新報社、2006年

dokusyoin2006-04-02


書評

菅谷義博『ロングテールの法則』東洋経済新報社、2006年

 梅田望夫ウェブ進化論』を読んでいて、初めてロングテールという言葉を知った。なるほどと感心したわけだが、具体的にはこの概念というのは世界とどういう繋がりを持っているのかがいまいちよく分からなかった。ロングテールは分かった、しかしそれが何を意味するのかが分からない。単にこちらのほうが利益が多いのか、それともコンピュータを使う事によってロングテールも扱えるようになったというだけのことなのかどうか。そんな風なことを考えていた。
 もうひとつは「ネット上に作った人間の分身がカネを稼いでくれる新しい経済圏」という文脈で、グーグルのアドセンスアドワーズが紹介されていたてんだ。特にこの新しい経済圏というのが耳新しくてそれがビンビン響いた。それというのも、ちょうどこのとき産業のn次化ということを考えていて、それへのヒントをつかんだような気がしたからである。産業の高次化というのは一次産業、二次産業、そして三次産業と分類できるが、そのうえの第四次産業というものがあるなら、それは一体なんだろうと考えていたからだ。サーヴィス業のサーヴィス業たる四次産業はメタサーヴィス業とでも呼ぶものかもしれないと考えた。しかし、登場する例はそのこととは直接つながらない産業のようである。
 アドセンスにしろアドワーズにしろそれは既成の広告の電子化であって、それはコスト削減で必ずしも新しいとはいえないのではないか。しかし、コストの削減によってニッチな商品の出番がやってきたといえるわけで、国内だけでなく世界へと容易に拡大していける道を開いたという事では意味があった。本書にもあるようにアドワーズの地域限定を使って「上海在住の日本人向け」の広告も出せるようになるかもしれないという発想はかなり実現度の高いものだろう。
 しかしながら、ここに書かれてあるのは大手通販の本業よりもファイナンスで儲けているだの、携帯はこれからのウェブビジネスは欠かせないなどのこれまでの既成のビジネスへの類推でしかない。ビジネスを横へ横へと広げているだけで、縦に向かって高次化しているわけではないということだ。それは明らかにないものねだりをしているわけだが、ITによって単にこれまでの産業のIT化ではなく、ITによるITのための産業が出てくる事を期待したい。それこそが産業の高次化につながっていく道を開くように思う。